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松山地方裁判所 昭和24年(行)47号 判決

原告 仙波武一

被告 愛媛県農地委員会

一、主  文

被告が昭和二十四年七月二十九日付を以て定めた松山市生石地区及び垣生地区所在国有地の売渡計画中別紙第一、第二目録記載の土地部分についての計画を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十四年七月二十九日付を以て定めた別紙目録記載の土地についての売渡計画はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として次の通り陳述した。

原告は、従前松山市北吉田千九十番地に家屋敷を、その附近に田畑合計約二町五反歩を所有し、伝来の家業である農業を営んでいたものである。然るに、昭和十七年九月政府が軍用地に充てる目的で松山市生石地区及び垣生地区に跨る二百七十二町三反に及ぶ民有地を買収するに当つて、原告の宅地及び農地もその一部として買上げられたので、原告は止むなく肩書地に引越し、ここにおいて五反余の農地を耕作して依然農業を営み今日に至つたものである。買上げられた民有地は、海軍航空隊基地として使用せられ通称吉田浜飛行場の名を以て呼ばれていたが終戦後、大蔵省の管理に移され、その後自作農創設特別措置法の施行に伴い昭和二十三年十二月同法第四十一条同法施行令第三十一条、第十二条、第十三条の規定に依る手続を経て、総て将来農地として開発する土地即ち未墾地として農林大臣の所管に移され、次いで、翌昭和二十四年七月二十九日被告委員会において定めた売渡計画に依り附近の住民に売渡されることになつたのであるが、原告は、右売渡計画が定められるに当つて被告に対し買受の申込をしたけれどもその選にもれ売渡の相手方とせられなかつたものである。然し乍ら、原告の元所有農地の内別紙第一目録記載の分は、政府が買収後も依然海軍航空隊がこれを蔬菜栽培用地として利用していたものであり、又別紙第二目録記載の農地は潰廃せられて飛行場用地として利用せられていたけれども、終戦後地元松山市生石地区農業会が第一目録の土地等と共に大蔵省(地方財務局)から仮に貸付を受けて附近住民に割当て耕作させていたもので、昭和二十三年秋の麦播付時期頃には、これらの土地を含む附近一円の土地約十町歩は農地として利用されていた。そうであるとすると、政府がこれら土地を前述の如く自創法第四十一条に基いて大蔵省から農林省に管理換したことがそもそも過誤と言うべく、これは政府の所有する農地として同法施行令第十二条に依る管理換の手続を経た上、同法第十六条に依りこれが売渡計画を定めるべきである。そうするときは、同法施行令第十七条第四号に依り前記原告所有の従前の農地(別紙第一、二目録記載の農地、本件土地)は当然原告に売渡されるべきものである。尤も、右自創法施行令第十七条第四号の規定は、政府が同法第三条第五項第三号の規定に依り買収した農地であつて、法人その他の団体が昭和十六年十二月八日以後において個人から買受けたものに適用されるものである。けれども、右管理換は国の内部における行為と言つても、農林省は大蔵省に対して相当の代価を支払うことになつているものであるから、これを自創法第三条第五項第三号の規定に依る買収と看做すことができるわけであつて、当初原告らから買収した政府はもとより法人であるから、本件においても右自創法施行令第十七条第四号の適用あるべきが当然である。依つて、右売渡計画中本件土地にかかる部分の取消を求めるものである。

仮に右の理由がないとしても、換言すれば、本件土地を含む軍用地を未墾地として管理換したことが適法であるとしても、被告が本件売渡計画において原告に対し全然売渡しをしないことは裁量権を誤つたものである。即ち、前述の通り原告は従前二町五反歩を自作していた精農であつて、現に農業を営んでおり農業に精進する見込あるものに該当する。しかも前述した自創法施行令第十七条第四号の規定の趣旨、昭和二十年十一月十五日附国第七六号大蔵農林次官の地方長官宛の「農耕に利用すべき元軍用地等国有財産の処理実施に関する件」通牒(甲第一号証)昭和二十一年十一月九日附農林大蔵次官の「自作農創設特別措置法制定に伴う買上地等の国有財産としての取扱並に大蔵省雑種財産の処理に関する覚書」(甲第二号証)等に徴しても原告は、他の者に優先して従前の原告の農地、少くとも管理換土地の一部の売渡を受けるべき権利を有するものと言うべきところ、売渡を受けることとなつたものの中には、本件管理換土地に従前の所有地のないもの、又は到底農業に精進する見込のないものも多数含まれているのである。斯様な裁量権の乱用は本件売渡計画を取消すべき瑕疵と言うに足る、と言うに在る。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は、原告の負担とする。との判決を求め、答弁として次の通り陳述した。

原告主張事実中、昭和十七年九月政府が軍用地とする目的で松山市生石及び垣生両地区に跨る民有地二百七十二町三反を買収して海軍航空隊基地として使用していたこと、終戦後大蔵省がこれを管理中その一部分を地元生石地区及び垣生地区農業会をして暫定的に農耕地として使用することを許容し、同農業会は附近住民にこれを割当て耕作せしめていたこと、昭和二十三年十月二日これら旧軍用地の中百七十五町九反十五歩は自創法第四十一条同法施行令第三十一条第十二条の規定に依り大蔵省から農林省に管理換されたこと、被告が昭和二十四年七月二十九日地元増反者詮衡委員会及び愛媛県開拓委員会入植者詮衡部会に対する諮問を経て右管理換した土地につき売渡計画を定めたことはこれを認めるも、右土地の中に原告の元所有地が含まれていたことは知らない。管理換した土地の中生石垣生両地区に亘つて約三十町歩は前述の通り地元住民が仮に使用を許されて耕作していた農地であつたけれども、この部分も防災、排水、道路等の施設の綜合計画を立てるため他の部分と一括して緊急開拓事業の対象として取上げるに至つたものであるから、これを以て違法な管理換と言うことはできない。而して売渡計画を定めるについて、被告は所定の手続に則り地元の増反者詮衡委員会及び愛媛県開拓委員会入植者詮衡部会の諮問を経てこれをしたものであるが、原告はこれら委員会の詮衡にもれたので、原告に対しては売渡をしなかつたもので、本件売渡計画は何ら違法でない、と言うに在る。(立証省略)

三、理  由

昭和十七年九月頃政府が松山市生石地区及び垣生地区に跨る民有地二百七十二町余を買収し、これを海軍航空隊基地として使用していたこと、終戦後大蔵省が右旧軍用地を所管していたが、その頃同省(地方財務局)がその中約三十町歩を地元生石地区及び垣生地区各農業会に仮に貸付け、右両農業会はこれを夫々附近住民に割当し、耕作せしめていたこと、その後昭和二十三年十月頃右仮貸付地を含む旧軍用地百七十五町九反十五歩の土地が自創法第四十一条同法施行令第十二条第十三条の規定に依り所定の手続を経て、総て未墾地として大蔵省から農林省に管理換されたこと、被告が地元増反者詮衡委員会及び愛媛県開拓委員会入植者詮衡部会に対する諮問を経た上昭和二十四年七月二十九日右管理換した土地について売渡計画を定めたこと、原告は右管理換した土地について買受の申込をしたけれども、両詮衡委員会の詮衡の選にもれ右計画において売渡の相手方とならなかつたものであることは当事者間に争ない。

原告は、先ず本件土地はこれを農地として管理換すべきもので従つて原告は、当然これが買受権を有すると主張するけれども、自創法施行令第十七条第四号は自創法第三条第五項第三号の規定により買収した土地に関するもの、換言すれば、法人その他の団体でその営む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地を買収した場合について適用ある規定であつて本件の場合にこれを適用することはできないから、爾余の判断を用いるまでもなくこの点についての原告の主張は失当である。

仍て原告の予備的主張について考えて見る。

そもそも自創法第四十一条の農業に精進する見込あるものに売渡すとの規定は、当該土地との関係において農業に精進するもの如何の認定、及び農業に精進する見込あるものと認めたものに対し幾何の土地を売渡すかの二点を当該行政機関の裁量に委ねたもので先ず農業に精進する見込のないものに売渡すことが違法であり、必ずしも農業に精進する見込あるもの全部に対し売渡すことを要しないことがあり得ても、その間において、条理によつて定まる客観的基準を無視した不公平な扱をすることも亦同じく違法と言うべきである。

原告本人の供述に依ると、原告は、従前松山市北吉田千九十番地(生石地区)に家屋敷を、その附近に田畑合計二町七、八反を所有し先祖代々の家業である農業を営んでいたものであるところ、昭和十七年九月、吉田浜海軍航空隊基地の設置に伴い、政府のため強制的にその住宅及び農地の大部分を買収され立退を命ぜられて、約十二、三丁離れた現在の住所(松山市垣生地区)に移住しここで農地三反を買入れ、買収を免れた従前の一反歩の農地と併せてこれを自作し、別に一反歩を小作していたが、右小作地は今次の農地改革に伴い原告が売渡を受けたものであること、昭和十七年当時原告は妻と二人の労力にて全所有地を耕作していたものであることを認めるに足り、以上の事実に加うるに証人中矢平太郎の証言を綜合すると原告は稀に見る精農家であることを認めることができ、更に原告本人の供述に依れば原告家では現に原告夫妻子女四人の家族があり、中長男及び次男は小学校教員を奉職しているけれども、なお十分の耕作余力を有していることを認めることができ、以上認定事実に反する証拠はない。そうすると、原告は現に居住している垣生地区においては勿論、従前の居住地である生石地区においても、本件管理換土地の売渡を受けるにおいては、これを耕作し得て農業に精進する見込あるものに該当するものと言うべきである。

然るに、証人清水清治、同森勝元、同中矢平太郎の各証言及び原告本人の供述を綜合すると、被告は、本件売渡計画を定めるに当つて、生石地区及び垣生地区において、夫々地元有力者からなる増反者詮衡委員会を構成せしめ、売渡を受ける適格者の詮衡をその判定に委ねたものであるが、原告は、従前居住していた生石地区の詮衡委員会及び現に居住している垣生地区の詮衡委員会双方を通じ、被告に対し夫々当該地区内の管理換土地の買受申込をしたにかかわらず、生石地区委員会においては、原告が現に所属地区内に居住してないとの理由により、垣生地区委員会においては、原告は所属地区内の管理換土地の中に従前の原告の農地がなかつたからとの理由に依り、夫々売渡の相手方となる適格を有しないものと判定して、原告を詮衡しなかつたところ、愛媛県開拓委員会においては、右両詮衝委員会の結果を鵜呑みにして、被告の諮問に応じたものであること、原告は、同様の立場に在る従前の北吉田の土地所有者で両地区外に居住している者らと共に後述する政府の施策方針の実現を期して、一再ならず愛媛県その他の当局者に対し従前の土地の優先的還元方を陳情していたものであるが、右詮衡の結果に対しても、被告又は愛媛県当局者に対し、屡次陳情したけれども、被告は詮衡の結果を楯にして原告の陳情を容れず、両地区のいずれにおいても原告に対し全然売渡しをしないことに定めたものであることを認めることができる。

然るところ、成立に争ない甲第一号証、同第二号証、同第三号証、同第四号証を綜合すると、終戦後政府は戦時中民間から買受けて軍用の目的に供した農地は、これを従前の耕作者に還元する方針で施策していたものであるところ、自創法の公布に伴い同法に基いて政府所有の土地を売渡すこととなり、右の方針は明文化されなかつたけれども、同法の運用に当つてはその取扱をなすべきことをむしろ慫慂している趣旨を窺うことができ、又土地収用法の規定に依り買収された土地が事業廃止後従前の土地所有者に対し無条件にて還元されることを考えるとき、本件の如き場合従前の土地耕作者であつてこれを希望するものに対しては、可及的公平に土地買受の機会を与えるよう施策することは条理の要求するところと言わなければならない。

然るに証人仙波富雪、同仙波坂五郎、同森勝元、同中矢平太郎の各証言及び原告本人の供述を綜合すると、北吉田部落においては従前の約百二十戸の世帯の中八十戸が所有土地買収の上立退を命ぜられたものであり、垣生地区においても相当のものが同様他所に移住したのであるがこれらの者の中には従前に比して著るしく生活に困窮しているものがあることを認めることができるから被告が詮衡委員会を作るについては、地元民の外各従前の居住者をもその構成員に加えてこれをすべきを相当としたものと思料されるのであるが、それは兎も角として、詮衡委員会の詮衡は被告の諮問機関としてする一の答申に過ぎないものであるから、詮衡委員会の詮衡が被告の売渡計画を拘束するものでないことは勿論である。

然るに、証人清水義治、同森勝元、同中矢平太郎の各証言及び原告本人の供述を綜合すると、生石地区においては同地区内に居住していたものは管理換土地の従前の所有者でないものまで多数売渡を受けることになつており、その中には農業に精進する見込のないものや、他部落(同一地区内)の居住者も含まれていること垣生地区においても同地区内に居住していたものは従前の土地所有者以外の者でも農家非農家を問わず原告を除く総ての者が売渡を受けることになつていること、両地区いずれにおいても多いものは六反若しくはそれ以上、少くとも五畝歩、平均して二反歩位を売渡すことになつており、その結果合計二町歩以上の農地を所有することになるものもあること等の事実が明白であつて以上認定事実に反する証拠はない。

もともと、詮衡委員会を行政区を単位として構成したことは単なる便宜に基くもので、当該地区内の居住者でなければ売渡ができないとの成法上の根拠はなく、被告が原告に対し生石地区において相当土地を売渡すことも差支えなく、又前述の通り当該地区内に従前の土地を所有しなかつたものでも売渡を受けているのであるから、垣生地区において売渡すこともでき得るわけであるが、原告の如く本件管理換土地の従前の所有者であつて、管理換土地の所属する行政区内に居住しているものに対しては、生石地区又は垣生地区において従前の土地を買上げられ依然同地区内に居住して現に農業を経営しているものと同様に取扱うを相当とし、原告に対しては従前において、本件管理換土地を所有しなかつたものに優先して売渡をなすべきを条理上当然と言うべきところ、原告はこれらの者よりも極端な不利益を蒙るもので、特に原告が前述の通り稀に見る精農家であることを考え合わすとき、被告が原告に対して全然売渡をしないことは、著るしく裁量を誤つた違法の処置と言うべく、本件売渡計画の一部は修正を免れないものである。

然しながら、原告は当然従前の所有地の全部又は一部の売渡を受け得べき権利を有するものでなく、管理換土地の中如何なる場所の地積いくばくを原告に売渡すかは、被告の裁量に委ねられるべきものであるから、本件売渡計画は一応これを全部取消すを相当とすべき如くであるけれども、それでは影響するところ甚大であると共に、本訴請求の範囲を超えると思料されるので、原告の請求に従つて本件売渡計画中原告の従前の土地の一部である別紙第一及び第二目録記載の土地の部分を取消すべきものとする。(被告が右取消部分の全部又は一部を原告に売渡すか又は他の部分の計画を職権を以て取消してこれを原告に売渡すこととするかはその裁量に依るべきものとする)

なお、本件は被告に対する異議の申立及び愛媛県知事に対する訴願を経ていないと認められるけれども、前述の通り、原告は被告又は愛媛県知事の補助機関に対し屡次陳情を繰返して本件売渡計画の変更方を陳情したに拘らず、それが容れられるところとならず計画の決定の日から一箇月内に本訴請求をしたものであるから右の手続を経ないことは本訴を不適法とする理由となすに足りない。

仍て、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 加藤謙二 橘盛行 水地巖)

(目録省略)

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